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Cureは可能か?2014年12月3日(水)-5日(金)大阪国際会議場 会長/塩田 達雄 主催/日本エイズ学会

ご挨拶

第28回日本エイズ学会学術集会・総会
会長 塩田達雄
大阪大学微生物病研究所
感染機構研究部門ウイルス感染制御分野 教授

 第28回日本エイズ学会学術集会のお世話を仰せつかりました大阪大学微生物病研究所の塩田です。この場をお借りして一言ご挨拶申し上げます。

 1981年のエイズの最初の報告や1983年の原因ウイルスHIVの分離同定から30年余りが経過しました。この間、エイズに対する理解や治療法、さらにはHIV感染者の方々を取り巻く状況は大きく変化して参りました。1990年代後半に開始された多剤併用療法により感染者の血中HIV量は検出限界以下にまで減少させることができ、感染者の予後は著しく改善され、エイズは「死の病」ではなくなりました。国連合同エイズ計画の発表によれば、2012年末の全世界のHIV感染者数は3530万人と依然として膨大ですが、アジア・アフリカ諸国においても抗HIV薬による治療が急速に進展し、全世界では年間死亡者数や新規感染者は着実に減ってきております。それでも、現時点においては残念なことに、血中のHIVを検出限界以下まで減少させ続けても、感染者の体内からHIVを完全に排除することは不可能です。休止期にあるCD4陽性Tリンパ球やその他の寿命の長い細胞の中でHIVが潜伏し続けることが、HIV感染症の根治を不可能にしていると考えられております。

 しかしながら、2009年に、慢性骨髄性白血病の化学療法に引き続きHIVが感染できない遺伝子型の幹細胞移植を受けた感染者からHIVが検出されなくなったとの報告がなされました。2013年には、感染後ごく早期に抗HIV薬投与を開始して一定期間服用を継続したHIV感染者の中には、少数ながら治療を中断してもHIVの増殖が低く制御されている者も存在するとの報告が続き、抗HIV薬を服用し続けなくとも問題ない程度までならHIV感染症をcure(治癒)させることも不可能ではないかもしれない、との期待が高まりつつあります。

 そこで今回の学術集会のテーマとして「Cureは可能か?」を取り上げることにしました。お薬によるHIVの制御がある程度可能になった今日、エイズ研究の次の目標はcure(治癒)であると確信するからであります。もちろん、前述の例は、リスクの高い幹細胞移植がどうしても必要であった例や感染早期に治療を開始する事のできたごく例外的な症例であり、現在HIVに感染しておられる大多数の方々に直ちに一般化することはできません。従ってcure(治癒)に至る道は長く険しいものにならざるを得ないことは明らかであります。

 ところで「cure」とは単にHIVを感染者の体内から排除することよりは広い意味で私は考えています。抗HIV薬の副作用、不用意な感染告知やあってはならない差別によって生じた心の傷や不利益、さらにはHIVによって多くの方々がお亡くなりになったアジア・アフリカ諸国の人口構成の歪みに基づく諸々の社会・経済的問題も、最終的には「cure」されなければなりません。医学の究極の目的が「cure」であるならば、HIVという一つの病原体がもたらした全ての問題について、「cureは可能か?」、「cureするためには何をしたらいいのか?」、「cureを目指す過程でどのようにcareするのか?」という、いわば当たり前すぎる問いを、HIV感染症に関わる全ての方々に改めて議論して頂く場を今回の学術集会において提供できれば、と願っております。皆様方の暖かい御協力、御鞭撻、御支援をよろしくお願い申し上げます。